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2010-02-13 (Sat) コラム
皆さんはナマコ(海鼠)をご存じだろうか。そう、海に棲むあの奇妙でグロテスクな生き物だ。
ナマコはおいしい。先日家族で行ったお寿司屋さんでナマコの酢の物を出してくれた。酒の肴にいいと思う。そのときはビールを飲んでいたが、日本酒の方が合うだろうなと思った。
噛むとキュッとした抵抗感があり、噛みしめるとじわあっと崩れていく。ああ、これがかの「キャッチ結合組織」か、などと私は感慨にふけっていた。
ナマコに関して、私はかなり詳しい事前リサーチを済ましていた。ちょっとした興味だ。
ナマコは棘皮動物だ。その身体の構造は、まるで1つの筒のようなもので、一方の口から反対側の肛門まで食べ物の通る穴が空いている、ほとんどそれだけだ。心臓もなければ肺もない、脳すら持たない生き物。動きが緩慢で、土(に含まれる有機的な塵のようなもの)を食べて生きていることを聞けば、植物に近い存在のような気もしてくる。もともと、動物と植物の違いがDNAレベルでは大差ないらしいのだが。
他にも、ヒトデなどと同じ仲間で5方向に対称性があるとか、特徴はいろいろあるが、キャッチ結合組織というのも独特な構造の1つだ。
ナマコには骨がない。リラックスしているときはべろんと柔らかい身体なのだが、刺激を受けたりすると急激に身体を固くする。その仕組みがキャッチ結合と呼ばれるもので、身体の組織の1つ1つが互いにキャッチし合い、結合し合って固まる。ナマコは意外と敏感なやつだ。
敏感な身体の仕組みは、刺激を受けると自分の内臓を吐き出してしまう辺りにも表れている。
しかし、浜辺でのそのそと身を横たえたまま、波に転がされ、砂に埋もれ、人間に踏みつけられたりする様子を知れば、あまり神経質な生活態度とは思えない。むしろなんでも来いといったずぶとさが感じられる。
また、ナマコは高い再生能力を備えている。少々体がちぎれても再生してしまうところなどを見ると、「したたか」という言葉が相応しいかもしれない。
敏感な身体を持ちながら、その身ひとつで世界に体当たりをして、したたかに生き抜くナマコ。この態度は、私たちも見習うところがあるかもしれない。
世情に敏感でありたい。世界を恐れず関わっていきたい。そしてどんな厳しさにも打ちのめされることなく、この世界を生き抜いてやりたい。私はそう思う。
酢で締まったキャッチ結合組織を奥歯で噛みしめながら、そんなことを考える。